令和2年3月30日(月)
兼題「惜春」(題者 青柳隆志)
【特選】
兼築信行
行くはるを をしむころなど かにかくに よのしづもるを いのるひびかな
選評(青柳隆志)
今年の春は「コロナ」一色でございました。
「惜春」の題が詠みづらいことおびただしかったかと存じます。
本作は「物名」として詠みつつ、歌徳により平穏を祈るという趣あり、
「かにかくに」つきづきしく存じます。
詠進歌
仲谷嘉洋
妹と 外に出づれば 春の午後 街に人無く 花は散りゆく
笠原雄二
うちなびき さけるさくらを そむけつつ はたらくともら はるををしめり
菅原秀太
この春は 踏むことさへも 許されず 散り行く花に 夜籠りの月
スニトコ・タチアナ
清き流れ 神酒をうかべる 盞に 都の春を 惜しむ歌あり
黒田宜子
西風に とみにうつろふ 花びらの 袖慰めむと 少しゐたりき
森下正博
花のもとの 宴もたえて 散策の 道に仰げり 過ぎゆく春を
三宅やよい
ぼんぼりに さくらただよふ 目黒川 時よ止まれと 背につぶやけり
吉野清美
うららかな 照る陽に匂ふ 桜花 風にひとひら 散るを聞きつつ
高橋英子
とりどりの はなをおもひて うぐひすは をしとなくらむ はるのゆくすゑ
宮 廣美
ゆく春や ひかりあつめて花々は 色香をはなつ こきもうすきも
林 純一
かぜ寒く なりこしままに 散る花の 名残り愛(かな)しき 春の夕暮れ
大原 稔
行くはるよ むめにうぐひす さくらばな しづごころなく おもひわづらふ
兼築信行
行くはるを をしむころなど かにかくに よのしづもるを いのるひびかな
青柳隆志
この春は さまざまありて 過ぎにけり はやうつろへとは いのらぬものを