令和4年12月14日(水)
早稲田大学にて、百人一首から時代不同歌合を挙行いたしました。
判詞は次のとおりです。


令和四年師走早稲田大学歌合

題 秋 恋 冬

判者 青栁隆志

左方人頭 林 純一
方人 吉野清美
方人 岸志津佳
方人 田上富美子
講師 天之原詩恩
発声 笠原雄二

右方人頭 大原 稔
方人 荒川克美
方人 森下正博
講師 天之原泰洸
発声 高橋英子

一番 秋
左 勝 大納言経信
夕されば門田の稲葉おとづれて芦のまろやに秋風ぞ吹く
右   在原業平朝臣
千早ぶる神代もきかず龍田川からくれなゐに水くくるとは

左難申、龍田川とはいかに。右陳云、春秋の風物を詠むは和歌の道なり。春は桜、秋は紅葉。龍田川はいにしへより紅葉の名所なり。
右難申、門田とはいかに。左陳云、この秋、歌がよまれける梅津をおとづれて遺跡(ゆいせき)を見き。をりよく秋の風ふきき。門田は門の前の田とありき。

判云、いづれも披講をまなぶ身なれど、右の披講ことにわろし、以左為勝。

二番 恋
左   藤原義孝
君がため惜しからざりし命さへながくもがなと思ひけるかな
右 勝 式子内親王
玉の緒よ絶なば絶えね長らへば忍ぶることのよわりもぞする

左難申、恋の歌あまたある中、この歌を選びしゆゑありや。右陳云、恋のきはみなり。これよりつよき歌はほかになし。
右難申、惜しからざる命と言ひて、なほ長きを願ふは、あはざるものと思ふが、いかに。左陳云、恋しき人にめぐり会ひて共に過ぐす月日の長きを願ふこころなり。

判云、右、式子内親王の名歌なり。歌がら高ければ、右をもちて勝ちとなす。

三番 冬
右 持 山部赤人
田子の浦にうちいでて見れば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ
左   中納言家持
かささぎのわたせる橋におく霜の白きを見れば夜ぞふけにける

右難申、かささぎの橋は七夕とおもふが、いかに。左陳云、然り。尤もなり。
左難申、すぐれてあはれなり。されど、ととのひそするとおもふが、いかに。右陳云、万葉集には「田子の浦ゆ」とあれど「田子の浦に」と新古今集に収めらるるものなり。

判云、左の歌、冬の雲居の景色とおぼゆ。左、右、ともに同じ時代の歌びとなり。いづれも歌がら高ければ、持とすべきにや。